ホントに効くの?小児科医が答える予防接種のギモン(2)

小児科医が答える予防接種のギモン(2)
保育園などへ子供を預けて働く育Workerが、子供の健康のためにできること、しておきたいことの1つが「予防接種」でしょう。「小児科医が答える予防接種のギモン」では、小児科医の諏訪内亜由子先生に、育Workerの育江さんの質問に答えていただくかたちで、「予防接種」に関する正しい知識をお伝えします。任意接種の必要性や優先順位などについて解説した第1回に続く、第2回は、予防接種の効き目についてです。
育江
こんにちは!育江(いくえ)です。「予防接種」について疑問に思っていることを、先生にどんどん聞いていきたいと思います。
亜由子先生
こんにちは!本記事を担当する小児科医の諏訪内亜由子です。夫と共に女の子二人の育児をしながら、小児科医と産業医の仕事をしています。家庭でも職場でもみんなが笑顔で暮らせるように医療目線でコメントしていきたいと思います 。

予防接種の効き目

予防接種はなぜ効くの?

育江
予防接種(ワクチン)はそもそも、なぜ効くのでしょうか?
亜由子先生
ワクチンとは感染症の予防に用いる医薬品のことです。予防接種の原理を簡単に言うと、病原体を弱めたものや似たようなものをあらかじめ体に入れることにより、体にその病気に対応する練習をさせるということです。すると、万一その病原体が体に入ってきたときに、体の免疫はすばやく反応できるようになるのです。まれに熱や発しんなどの副反応がみられますが、実際に感染症にかかるよりも症状が軽い事がほとんどです。

効き目は100%じゃない?

育江
予防接種はどれくらい効き目があるんですか?
亜由子先生
ワクチンの効果(免疫のつき方)には個人差もありますが、ワクチンを接種しなければ免疫が得られないし、免疫がない状態で罹患して発症すれば重症化する(後遺症が残ったり死亡する)ことがわかっています。
ワクチンの効果については、科学的にきちんと証明されたものです。そして、WHO(世界保健機構:世界健康を考える国連組織)の推計によると、ワクチンによって年間200~300万人の命が救われているそうです。世界的にワクチン接種の普及率が上がれば、さらに150万人ほどの命が救われる可能性があるといいます(海外の状況を見れば、日本は、保護者が希望し、小児科にアクセスさえできれば予防接種ができる恵まれた国といえます)。
ただし、予防接種を受ければ100%その病気にかからないというのではありません。その病気にかからなくすることを目的としたワクチン、かかったときに重症化を防ぐことが主な目的であるワクチンがあります。インフルエンザやロタなどは後者に当たるものです。
育江
自然に感染して免疫をつけたほうがいいということはありませんか?
亜由子先生
自然感染の場合「軽く済む」とは限りません。麻疹(はしか)などは重大な合併症がありますし、おたふくのように後遺症が残るもの、水痘のように跡がたくさん残ってしまうものもあります。色々なリスクとベネフィットを科学的に検証したうえで予防接種は推奨されているのです。
亜由子先生からもう一言
おたふく(流行性耳下腺炎)は精巣炎や卵巣炎による不妊、難聴を合併することがあります。実際、おたふくワクチン未接種で中学1年生のときにおたふくを罹患し、両方の精巣が機能しなくなってしまったお子さんを診察したことがあります。機能が元通りになる治療法は現段階ではありません。
また、国立感染症研究所の発表によると麻疹(はしか)の感染者の報告数が、今年に入ってから5月26日までに566人となりました。この数は、昨年1年間のトータルの2倍になります。海外渡航者が感染して帰国し、国内で免疫のない人が感染したと見られます。
麻疹ははじめから「麻疹」の顔をしていません。熱や鼻水・咳という風邪の症状で始まります。そのため当初は麻疹を疑わず、複数の医療機関を受診したり、人の多い場所に出入りしてしまうこともあります。感染力は強く(インフルエンザの10倍)、また、感染した場合ほとんどが発症します。麻疹は空気感染もするのでマスクや手洗いでは予防できません。予防接種が最も有効な予防法です。
麻疹のワクチンは1歳を過ぎたら、すぐに接種しましょう。また、育Workerの皆さんたちご自身の記録(ワクチンが2回接種されているか)の確認も大事ですよ。次回、改めてお伝えしたいと思いますが、お子さんたちが1歳前に流行地域で集団保育に入られる場合は、麻疹ワクチンの任意接種も可能です。

何度も打つほうが、効き目がある?

育江
何度も打つものもあります。必要はあるんでしょうか?
亜由子先生
特に、ヒブ、小児用肺炎球菌、ロタ、四種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)ワクチンのような0歳の早い時期に接種するワクチンは、2~3回接種しないと免疫がつきにくいため、複数回の接種が標準となっています。
ワクチンの効果は人によりますが2回目以降ぐらいから期待できる場合が多く、逆に、1回ではその効果が得られにくいと言えます。
なかには、水痘やおたふくかぜのように昔は1回接種だったものもあります。しかし、1回だけではしっかりとした予防効果が得られないことがわかってきために、2回が推奨される接種回数となりました。

ワクチンが効き始める時期は?

育江
ワクチンを打ってから免疫ができる(効き目が表れる)までにはどれくらいの期間があるのですか?
亜由子先生
ワクチンによって違いますが、十分な免疫ができるのはワクチンを接種してからひと月ぐらいかかると考えて下さい。

予防接種の安全性

副作用の心配は?

育江
予防接種の副作用のほうが心配です。予防接種がきっかけで病気になってしまわないでしょうか。
亜由子先生
接種後になんらかの症状や病気が見られた場合、これを有害事象と呼びます。有害事象と思われるものには、ワクチンによるものと、ワクチンによらないもの(ワクチンとは無関係なことがたまたま起こっただけ)があります。医学的には有害事象のほとんどがワクチンと無関係であり、ワクチンによる重大な副反応が起こる確率は極めて低いことがわかっています

予防接種だけでなく、薬、食べ物、サプリメントなど体に入るものは、何らかの体への影響があります。それらの良い影響や悪い影響を考慮してみなさん取り入れるかどうかを決められていると思います。
その点、予防接種は様々な科学的研究・統計的研究を経て、良い影響(病気を予防したり軽く済ませたりする)が悪い影響(発熱や腫れなどの副反応)より優れていることがわかっているものです。
特に、子供たちの予防接種になっているというお薬は大変な審査経たうえで認可されているため、良い影響を重視して、ぜひ接種したいものです。

同時接種の効き目や安全性は?

育江
低年齢の時は複数の予防接種を受けることも多いですよね。同時に何本も打っても効き目はあるのですか?安全性も気になります。
亜由子先生
同時接種でも効き目がある(免疫をつけられる)のはもちろん、できるだけ早くしっかり免疫を付けるために世界的に同時接種が推奨されており、安全性も単独接種と変わらないことがわかっています。
日本の赤ちゃんが1歳前に接種する主なワクチンは、6~7種類で接種回数は15回以上にもなります。
当然、保護者の方の希望で、1種類ずつ接種することもできますが、これだけ多くのワクチンを、1種類ずつ接種していては、ワクチン本来の目的である病気の予防が遅れます。
2-6か月ごろの小さい赤ちゃんの免疫をつけるのに時間がかかっていてはむしろ危険です。
また、ロタウイルスワクチンは腸重積発症との関係で初回接種と接種完了の時期が厳しく決まっています。この時期に接種するワクチンはどれも優先的に受けたいワクチンですので、同時接種によって、しっかりと接種しましょう。
毎週接種に通うのは保護者の方やお子さんにとって大変な負担です。スケジュールを簡便にでき、接種忘れ防止にもなります。
育江
確かに同時接種をしたほうが、スケジュールは簡便にはできますね。それでもうっかり忘れてしまわないか心配です。鼻水や咳が出ているなど、体調が万全でないときにどうするのかも気になります。
亜由子先生
そうですね。「受け忘れたときは?小児科医が答える予防接種のギモン(3)」で、スケジュールの考え方などについてお伝えしたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

諏訪内 亜由子

慶応義塾大学医学部卒業(2002年)、同大学院医学研究科にて医学博士取得・小児科専門医・産業医。大学病院、関連病院小児科勤務を経て、現在、小児科クリニック医師、産業医として活動中。 「夫と共に女の子二人の育児をしています。家庭でも職場でもみんなが笑顔で暮らせるように医療目線でコメントしていきます。」