対象や条件は?10月から始まる「幼保無償化」の中身

全部、全員対象ではないことに注意

「幼児教育と保育の無償化(以下、幼保育無償化)」に関する法律が2019年5月10に成立、今年(2019年)10月から幼保無償化が開始することが正式に決まりました。

「無償化」といっても、幼稚園や保育園(保育所※1)に通っている園児全員が対象ではなく、利用施設によって補助金額の上限もあります。そこで、本記事では、その具体的な中身についてお伝えしていきたいと思います。

※1 児童福祉法では「保育所」と言いますが、本記事では通称として馴染みが深い「保育園」という呼び名を使用します。

0~2歳の幼保無償化

年収制限アリ。上限金額も設定

まず、対象者から押さえておきましょう。0歳から2歳は、生活保護世帯や「住民税非課税世帯(全員の住民税が非課税)」のみが対象です(住民税が非課税になるのは、国が示した目安によると~年収約260万円程度とされています)。すべての世帯が対象となるわけではありません。

また、無償化対象であっても、認可外保育園を使用する場合は、4万2,000円の上限が設定されていることに注意が必要です。

3~5歳の幼保無償化

施設によって変わる上限設定

3~5歳になると、全世帯が対象になります。所得条件は設定されていません。ただし、利用する施設によって補助金額の上限が設定されています。
3~5歳が通う施設には、幼稚園や保育園、認定こども園などがあります。認可を受けているかどうかなどによっても種類がわかれ、利用者負担額(以下、利用料)の考え方も異なってきます。そのため、まずは、幼稚園と保育園、認定こども園の種類について押さえておきましょう。

幼稚園と保育園、認定こども園の利用料

次の図は、利用料の観点から整理した幼稚園と保育園、認定こども園の概要です。
順番に見ていきましょう。

  • 幼稚園
    3歳~5歳児対象。小学校以降の「教育の基礎をつくる」施設(管轄は文部科学省)のため、利用時間も9~14時くらいまでと限定的。その前後や長期休み中の「預かり保育」を実施している幼稚園も一定数あります。
    公立と私立がありますが、利用料の面からは、下記の2つに分けて理解するのがわかりやすいでしょう。

●●新制度に移行した幼稚園(対象幼稚園)●●
平成27年の子ども・子育て支援新制度に移行した幼稚園です。公立や新制度へ申請した私立がこれにあたります。

新制度に移行した幼稚園の利用料は、自治体が決めており、年収※2によって差があります。(後述するように)保育料全無償化の対象のため、本記事では便宜的に対象幼稚園と呼びたいと思います。なお、預かり保育料金は園によって別途設定されています。

※2 実際は、住民税の額ですが、基本的に年収によって差が出るものなので、本記事は年収によるという表現を使用します。

●●上記以外(対象外幼稚園)●●
利用料は、園によって決められており、年収によって金額差は設けられていません※3。前後の預かり保育料も同様です。新制度に移行しておらず、(後述するように)全無償化の対象から外れているため、本記事では、便宜的に対象外幼稚園と呼びたいと思います。

※3 ただし、自治体から別途補助金が出ていて、年収によって補助金の金額に差が設けられている場合、年収による「実質」負担額は差が出る場合があります。

対象幼稚園かどうかは確認が必要
現状、どのくらいの私立幼稚園が新制度に移行しているのかはわかりませんが、筆者の住んでいる地域では、新制度へ移行している私立幼稚園は、32園のうち、3園でした。そのため、利用予定の幼稚園が対象かどうかは事前に自治体のお知らせなどでチェックしたほうがいいでしょう。また、幼稚園のホームページなどで料金案内がある場合は対象外幼稚園と判断できます。
  • 保育園
    0歳~5歳児対象。家庭で保育をできない保護者に変わって保育する施設です(管轄は厚生労働省)。

●●認可保育園●●
国の定めた基準を満たし、都道府県知事の認可を受けて運営を行っている施設です。公立も私立も、利用料は自治体が決めており、年収によって差があります。
●●認可外保育園●●
上記以外。とても小さな施設から、英語をはじめとした高度な教育をウリにしたハイスペック園まで様々です。料金は園が決めており、年収によって金額差は設けられいません。

  • 認定こども園(0~5歳児)
    教育と保育を一体の機能を併せ持つ施設。(管轄は文部科学省と厚生労働省)。また、利用料などは、認可保育園と同様です。
幼稚園と保育園の利用状況は?
実際の施設ごとの利用者数はどのような状況なのでしょうか。内閣府が2018年12月に公表した「幼児教育の無償化に係る参考資料」では次のようになっています。これを見ると、3歳~5歳では、保育園と幼稚園の利用者数は近い値で推移していることがわかります。

施設ごとの補助の上限額

以上をふまえて、「無償化」の内容を見ていきましょう。なお、どのケースでも、幼稚園や保育園へ支払うお金がすべて無償になるということではありません。

無償となるのは原則「保育料」本体で、行事費や給食費など、追加で徴収される費用は、いままで同様、実費がかかります(生活保護世帯やひとり親世帯などは除きます)。

さらに、気を付けたいのが補助の上限額です。各施設の補助の上限額は次の図のようになっています。

  • 認可保育園と認定こども園
    まず、認可保育園と認定こども園には補助の上限額は設定されていません。「無償化」イメージに最も近いですね。
  • 認可外保育園
    これが認可外保育園となると、3万7,000円という補助の上限額が設定されています。3万7,000円は、全国の認可保育園の利用料の平均から出した金額とのことです。認可「外」保育園の平均ではありません。そのため、認可外保育園に通わせるには、一定の負担はこれまで同様あると認識したほうがよさそうです。
なお、認可外保育園に関しては、補助の例外があります。都道府県等に届出を行い、国が定める認可外保育施設の指導監督基準を満たすことが必要です。ただし、経過措置として、指導監督基準を満たしていない場合でも無償化の対象とする 5年間の猶予期間を設けるとされています。
  • 対象外幼稚園
    次に、幼稚園をみてみましょう。対象外幼稚園の場合は、預かり保育なし(基本保育料)の部分は、2万5,700円です。2万5,700円は、対象幼稚園の利用料の上限です。預かり保育部分は、認可保育園の3万7,000円-2万5,700円=1万1,300円となっています。
  • 対象幼稚園
    対象幼稚園で預かり保育を利用しない場合は、無償化の上限はありません。預かり保育部分については対象外幼稚園と同様、1万1,300円という上限が設定されています。

幼保無償化のまとめ

つまり、どの施設も、国や自治体が利用世帯の収入によって利用料金を決めている部分は無料にするけども、施設が独自に決めている金額には上限額が設定されていると捉えるとわかりやすそうです。

法律成立からすぐに開始されるこの施策。細かい手続きに関しては、自治体のほうでもいままさに検討・整理している最中のようです。今後、新たな動きや補足すべき事項などが出ましたら、随時更新していきたいと思います。

子育ての「お金」への不安に対応した施策
育Workerにとって金銭的に助かると言えるこの施策ですが、認可保育園へ全員が入れるわけではないという大きな問題があるうえ、消費税増税を条件としている点、年収が高い人ほど現状と比べた負担軽減額が大きいという点などから、批判の対象となりやすくなっています。また、無償化を機会に保育園入園希望者とともに待機児童が増加したり保育の質が低下するのではないかという不安の声もあるようです。
認可保育園を諦め、認可外保育園にお世話になっていた筆者も、全入を優先してほしい、という気持ちは痛いほどわかります。一方で、子供を幼稚園や保育園に預ける際の保護者の負担が現状より軽減されたら助かると思う人が多いのも事実でしょう。以下は、前述した内閣府が公表している資料の中にある理想の子供数をもたない理由に関する調査結果です。
これを見ると、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」がいずれの世代でもトップとなっています。さらに、「どのようなことがあれば、あなたは(もっと)子供が欲しいと思うと思いますか」という質問に対する結果は下記のようになっており、「幼稚園・保育所などの費用の補助」が59.4%で2位となっています。

また、(少子化対策に成功したと言われる)フランスでは、3~5歳児を対象とした幼稚園は99%が公立であり、無償とのことです。こうした状況を踏まえ、今後、保育施設が増えることを願うしかありません。国は待機児童対策として、「子育て安心プラン」を前倒しし、2020年度末までに32万人分の受け皿整備を進めるとしています。
一方で、保育施設の設置には、場所も、とくに保育士さんの確保も必要で、一朝一夕ではいかないものあるでしょう。筆者個人としては、保育園で働きたいと思う人が1人でも増えていただけることを願いながら、保育園と保育士さんへの感謝の気持ちを常に持ち続けるよう気を付けたいと思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

小林麻理

ビジネスコンテンツライター、社会保険労務士、本サイト運営人。企画・編集オフィスライト(https://officewrite.wordpress.com)、社労士事務所ワークスタイルマネジメント(https://workmanage.net)代表。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。2003年に出版社(商業界)に転職、その後、翔泳社を経て、2013年3月に独立。現在、3歳の娘の育児中。