パートタイムなどで育Workをしている人にとっては、「扶養」の範囲を超えて働くかどうかは大きな問題の1つでしょう。そこで「扶養」とは何か ?その意味や「扶養」を抜けた場合の具体的な影響について解説したいと思います。第1回は税金のカベについてです。
執筆:小林麻理(社労士・本サイト運営人)
監修:五十嵐明彦(税理士・税理士法人タックス・アイズ代表)
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「もっと働く」を躊躇させる「カベ」とは?
「もっと働く」を躊躇させる、いわゆる「○万円のカベ」というものはご存知の方も多いでしょう。「カベ」と言われるのは、このラインを超えて働くとかえって現在の(夫※注1の収入も含めて)手取りが減る、つまり「損」するため、「もっと働く」を躊躇させるからです。
「カベ」には次の図のようなものがあります。
びっくりするほど、たくさんのカベがありとても複雑ですが、カベの種類は大きく2つ、「税金」に関するカベ(図中緑色部分)と「社会保険」(図中青色部分)に関するカベに分けられます。
そこで、第1回では「税金」に関するカベ(100万円、103万円、150万円&155万円、201万円)について解説していきます。
※注1:本稿では「妻」が「夫」の扶養にはいっていることを想定した書き方になっていますが、「夫」が「妻」の扶養にはいっているという方は夫と妻を読み替えていただければと思います。
税金の「控除」って結局、ナニ?
税金のカベを理解するうえでは、「ナニ」に対して税金がかかるのかをまず理解する必要があります。普段払う消費税は、購入したサービスや物の金額(価格)に対して8~10%がかかりますね。では、所得税や住民税はどうでしょうか?
こたえは「所得」です。「収入」ではないことに注意が必要です。雇われている人の収入とは、会社員であれば、給与の全額、自営業であれば事業で得られた売上の全額、つまり、得られたお金すべてを指します。税金がかかるのは、この収入から、必要経費や社会保険料などを差し引いた所得です。このように、金額を差し引くことを「控除(こうじょ)」と言います。
ですから、必要経費(控除額)は多ければ多いほど、所得は減り、税金も減ります(自営業の人が領収書を大事にしているのは、必要経費を増やし、所得と税金を減らすためなのです)。たとえば、収入が180万円だったとしても、控除の総額が110万円であれば、所得は70万円。税金はこの70万円にかかります。
課税されるのは「収入」でなく、「控除」を引いた後の「所得」。
誰でも受けられる「控除」がある
この控除のなかには、あとで説明する「配偶者控除」をはじめ、条件を満たせば一定金額を差し引くことを認められているものがあります。なかでも、誰でも受けられる控除のことを「基礎控除」と言います。所得税の場合38万円です。つまり、38万円までの収入であれば、所得はゼロと見なされ、所得税もかからない、ということです。
さらに、勤務形態にかかわらず、給与をもらっている(勤めている)場合は、「給与所得控除」というものも受けられます。金額は65万円です。つまり、お勤めの方は給与所得控除+基礎控除までは、所得はゼロとみなしますよということです。
結果、以下の図のように、所得税は、38万円+65万円=103万円まではかかりません。
なお、住民税は基礎控除が33万円です(所得税と微妙に違うのです)。この考え方であれば、住民税が発生するラインは、33万円(基礎控除)+65万円(給与控除)=98万円のはずですが、住民税の非課税対象が「100万円」と設定されているため、カベは100万円になります。
つまり、1つ目の100万円&103万円のカベは、自身の税金が発生するカベなのです。
所得税は給与収入が103万円まで、住民税は100万円まではかからない。100万円&103万円のカベは、自身の税金が発生するカベ
実際、住民税や所得税はどれくらいかかるの?
では、実際の所得税や住民税はどれくらいかかるのでしょうか?まず、所得税の税率は下記のように決められています。
ここでは100万円~195万円の場合、所得税率は5%。所得が上がると、ずいぶん税率も上がるのだな、ということだけ押さえておいていただければと思います※注2。
たとえば収入が115万円になると、所得税の対象となる所得は、115万円-103万円(前述の控除)=12万円です。つまり、所得税は12万円×5%=6000円、月額500円程度がかかることになります。
住民税の場合の税率は、課税所得にかかわらず、一律10%です。そのため、115万円の場合、所得は115万円-98万円(前述の控除額:33万円+65万円)=17万円です。つまり、住民税は、17万円×10%=1万7000円、月額にすると1400円程度がかかることになります。
こうして見ると、たしかに負担は増えるものの、100万円&103万円のカベで「もっと働く」を躊躇するには、実際にかかる税金は(次に説明する配偶者控除のカベや社会保険のカベに比べると)やや少額という印象を受ける方もいるかもしれません。

所得税は所得に応じた税率で(収入が100万円超え~195万円未満の場合、5%)住民税は一律10%で計算する。
150万円は、「夫の手取り」が減るライン
そこで、より強く、意識されるのが「配偶者控除のカベ」です。配偶者控除とは、収入が「基準額」以下の配偶者がいる場合、一定額を控除しますよというものです。つまり、税制上で扶養に入っているという捉え方ができます。
この基準額は、2018年の法改正まで103万円でした。そのため、103万円のカベを配偶者控除のカベと意識されてきた方も多かったと思います。所得税がかかる条件と同じのため、自分の税金もかからないし、夫の税金も安くなる税金のカベとしてわかりやすかったとも言えます。
それが、2018年から、この基準額が150万円に引き上げられた結果(住民税は2019年から155万円、以下同様です)、税金のカベが二手にわかれ、新たなカベが出現したということです。ここで、図をもう1度確認しておきましょう。この改正で、次回解説する社会保険料発生のカベを追い抜いたことになります。
配偶者控除の金額は38万円です※注3。一方で、150万円のラインを境に38万円(満額)か0円かというのは不公平、ということから配偶者特別控除という制度もあり、図のように201万円までは段階的に減額された配偶者控除は受けられるようになっています。
そのため、配偶者控除の「満額」を受けられるのが150万円と理解しておくのが良いでしょう。なお、住民税は155万円が満額の基準額ですが、配偶者特別控除が受けられるラインが201万円というのは一緒です。
※国税庁説明資料より
この201万円が扶養に関するカベの最高額です。このカベを超えると、完全に扶養を抜けた状態と言えます。
※注3:夫の給与所得が900万円(年収ベースで約1120万円)以下の場合です。給与所得が900万円を超えると、配偶者控除が減額され、1000万円以上になると、配偶者控除自体が受けられなくなります(2018年から新設された規定)。本稿では、夫の給与所得が900万円以下のケースを前提に解説しています。逆に一定額が増額される「老人加算」というものありますが、条件は妻が70歳以上ですので、これも本稿では割愛します。
法改正で、夫が配偶者控除を受けられる妻の年収基準額が150万円(住民税は155万円)に!201万円で配偶者特別控除もなくなり、扶養からは完全に抜けた状態になる。
実際、どれくらい夫の手取りが減るの?
では配偶者控除によってどれくらい、夫の税金は安くなるのでしょうか。所得税においては、配偶者控除の金額は「38万」となっています。この38万円は、あくまで、収入から差し引かれる控除ですから、38万円税金が安くなるというわけではないことに注意が必要です。
たとえば、配偶者控除をする前の所得が188万円の夫が、配偶者控除を受けて150万円になったとします。(いずれも所得が195万円以下で税率が5%のため)、所得税は38万円×5%=1万9000円安くなる計算です。
また、住民税においては、配偶者控除(満額)は33万円、税率は一律10%です。そのため、33万円×約10%=3万3000円安くなる計算です。つまり、所得税とあわせると約5万円2000円分、税金が安くなる(手取りが増える)ということになります。月額に直すと約4300円ですね。
なお、夫が会社員の場合、所得税の課税所得は、給与所得の源泉徴収票([給与所得控除]-[所得控除の額の合計額])、住民税の課税所得は、住民税に関する通知書類([課税標準の総所得])を見ることで確認できます。これは別記事で改めて解説したいと思います。
まず、控除後も所得税率が同じ場合、38万円×所得税率分、税金は安くなります。
【例1】所得:450万円(配偶者控除後:412万円)→税率20%
所得税は、38万円×20%=7万6000円安くなります。
所得税率が異なる場合、各々の税率と控除額で計算する必要があります。
【例2】所得:350万円(税率20%、控除額42万7500円)
→配偶者控除後 所得:312万円(税率10%、控除額9万7500円)
(350万円×20%-42万7500円)-(312万円×10%-9万7500円)=5万8000円、所得税が安くなります。
なお、住民税は税率が一律のため、3万3000円安くなるのは夫の所得にかかわらず一定です。
配偶者控除を受けると、夫が払う所得税は(配偶者控除前後の税率が同じ場合)38万円×所得税率分が安くなる。住民税は、一律3万3000円(33万円×10%)安くなる。
税金のカベの前にそりたつ社会保険料発生のカベ
以上、税金のカベの概要はお分かりいただけたでしょうか。しかし、その前にそりたつのが、社会保険料発生のカベです。
健康保険料や年金保険料の支払いインパクトが大きい一方、将来の自身の年金受給額に影響する(増額する)ため、判断が難しいと言えるでしょう。
これは、【106万?130万?社会保険のカベ~扶養を抜ける(2)?】で解説したいと思います。
(2019年7月公開/10月更新)

公認会計士・税理士・社会保険労務士。明治大学商学部3年在学時に公認会計士試験に合格。大学在学中から監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)に勤務し、国内企業の監査に携わる。2001年には、明治大学特別招聘教授に。現在は、税理士法人タックス・アイズの代表社員として相続税などの資産税業務や法人に対する税務業務を中心に幅広い仕事を行うほか、国内企業の監査業務に携わる。
著書に『子どもに迷惑かけたくなければ相続の準備は自分でしなさい』シリーズ(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)などがある。