106万?130万?社会保険のカベを理解する~扶養を抜ける?(2)

「もっと働く」を躊躇させる「○○万円カベ」。それぞれどんな意味があり、結局どれくらい手取りが減るものなの?扶養を抜ける/扶養に入るとどんな変化があるの? 影響を正しく理解したうえで働き方の選択をするために必要な知識を、イチから丁寧に解説します。今回のテーマは、「税金」に関する壁(以下「税金のカベ」)について解説した【第1回】に続き、「社会保険」に関する壁(以下、「社会保険のカベ」についてです。

執筆:本サイト運営人・社会保険労務士 小林麻理
執筆協力:モリヒロ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 森 広江

社会保険の扶養にも2つあることを理解する

「健康保険」と「年金」各々の扶養の意味とは?

最初に、「もっと働く」を躊躇させるカベの図を改めて見てみましょう。様々なカベがありますが、大きくは2つに分けられます。「税金のカベ」(図中緑色部分)と「社会保険のカベ」(図中青色部分)です。

この緑色の税金のカベ(100万円、103万円、150万円&155万円、201万円)については、【前回の記事:103万?150万円?税金のカベを理解する~扶養を抜ける?(1)】で解説しました。「税制上で扶養に入っている」ということは、自身の収入に対する税金が発生せず、夫の税金が安くなる(配偶者控除が発生する)状態ということでしたね。

一方で「社会保険」のカベを超えず、「社会保険上で扶養を入っている」ということは、自身の社会保険料が発生しない状態を言います。さらにこのことは、次の2つの意味があります。
(1)「健康保険」で扶養に入っている
(2)「年金」で扶養に入っている
次から、各々について解説していきましょう。

※本稿では、「妻」が「夫」の扶養に入っていることを想定した書き方になっていますが、「夫」が「妻」の扶養となっているという方は夫と妻を読み替えていただければと思います。

ここまでのまとめ
社会保険上の扶養とは、健康保険上の扶養と年金上の扶養の2つの意味がある。

「健康保険」の仕組みを理解する

「健康保険」で扶養に入っているとは?

まず健康保険に関することから見ていきます。健康保険を利用されている方の多くは、次のパターンに当てはまるでしょう。

(1)企業に勤めず、本人が国民健康保険に加入している※1
(2)企業に勤め、本人が健康保険に加入している
(3)企業に勤める夫が加入する健康保険の扶養家族になっている

市区町村などが運営する国民健康保険と、健康保険組合などが運営する健康保険は別のものです※2。パートタイムを含め、企業に勤める方で一定条件を満たした方は、健康保険組合などが運営する健康保険に加入することになります(2)。それ以外で、フリーランスなど企業に勤めていない方(1)が利用するのは市区町村などが運営する国民健康保険です。本稿では、この2つを総称する場合の健康保険は、黒字で表現します。

「扶養に入っている」とは、(3)の状態のことです。健康保険に加入し保険料を納付しているのは夫で※3、妻はその扶養家族として健康保険を利用することになります。「扶養を抜ける」というのは、(3)の状態をやめ、(1)(2)のように本人が、健康保険に加入し(被保険者と言います)保険料を納付するということです。

※1「加入」しているのは、健康保険の経営主体(主体となって給付などを行うもの。法律用語では「保険者」と言います)です。本稿では便宜的に、「(国民)健康保険に加入」という言い方をします。
※2 健康保険の保険者は「健康保険組合」と「全国健康保険協会」、国民健康保険の保険者は、「市区町村」と「国民健康保険組合」です。健康保険国民健康保険、それぞれ別の法律で規定されています。
※3 健康保険の場合、実際は、会社を通じて保険料の納付(給与から天引き)を行います。また次回解説するように、会社がその保険料を半額負担してくれます。

ここまでのまとめ
「健康保険で扶養に入っている」とは、夫の健康保険の扶養家族になっている状態

自身が健康保険に加入するメリット

お話したとおり、扶養を抜け、自身が(国民)健康保険に加入した場合は、健康保険料※1も自身で納付しなければいけません。

ただし、(2)のように、(企業に勤めている人が対象の)健康保険に加入した場合は、メリットもあります(これが、社会保険のカベが税金のカベと最も違う点です)。それは本人が健康保険の加入者(被保険者)になると、会社を病気や出産などで長期間休んだときの所得保障の制度が利用できるということです。この制度が「傷病手当金」や「出産手当金」で、概要は次のとおりです。
傷病手当金
療養のために働けない場合に、原則として標準報酬月額(月収の目安)※2の3分の2に相当する金額が支給される制度です。

出産手当金
出産のために働けない場合(原則、産前42日、産後56日)に、傷病手当金と同様の計算方法で一定の金額が支給される制度です(詳細ついては、【産休の条件は?社労士がイチから解説、出産&育児制度(2)】をご参照ください)。

また加入している健康保険組合によっては、その組合独自の福利厚生を利用できるというメリットもあります。
一方で、企業に勤めずフリーランスで働く場合(1)などで、自身が国民健康保険の被保険者となった場合、(特別な福利厚生を設けている国民健康保険組合などに加入した場合を除き)扶養に入っている状態と比べたメリットは特にないのが現状です。

※1 たとえば、健康保険の場合、標準報酬月額※2×健康保険料率で計算し、半額は企業が負担します(なお、2018年の健康保険組合における健康保険料率の全国平均は、9.2%でした)具体的な内容については、次回解説します。
※2 社会保険に関する金額に関しては、※1に出てきた「標準報酬月額」といった月収に関する用語が出てきます。これは、一定時期(原則4~6月)の月収に基づき「平均月収の目安」を決定する仕組みです。健康保険の「標準報酬月額」の一覧はココから確認できますが、詳細な説明はここでは割愛します。「平均月収の目安」となるもの、と捉えて読み進めていただければと思います。

ここまでのまとめ
扶養を抜け、自身が勤め先の健康保険の加入者になった場合は、会社を休んだ際の所得保障があるといったメリットもある。

「年金」の仕組みを理解する

2階建て「国民年金」と「厚生年金」とは?

では、次に「年金」の扶養に関する内容をみていきましょう。この理解のためには、「国民年金」と「厚生年金保険(以下、厚生年金」の概要について押さえておく必要があります。

国民年金は国民全員が加入することになっている年金制度です。一方で、企業に勤めていて、かつ一定の条件を満たした人が加入できるのが厚生年金です。厚生年金に加入していれば、自動的に国民年金に加入しているとみなされます。そのため国民年金厚生年金の両方が受け取れます。
制度のベースとして国民年金(1階部分)があり、厚生年金(2階部分)に入ると、年金が上乗せされるイメージです(下図)。年金制度は「2階建て」と言われるのはこのためです。

※企業独自の「企業年金」などに加入している方は3階建てとなります。また、自身でiDeCoなどに加入することで階を積み増す(3階建て、4階建て)にすることも可能です。

年金で「扶養に入っている」状態とは?

そして、年金の加入状況は次の3パターンに分けられます。

(1)自身が国民年金に加入する
国民年金では第1号被保険者という扱いになります。

(2)企業に勤め、自身が厚生年金に加入する
前述のとおり、(2階部分の)厚生年金に加入すると、(1階部分の)国民年金にも自動的に加入したことになります。国民年金では第2号被保険者という扱いになります。

(3)厚生年金に加入している夫の扶養に入る
厚生年金に加入している夫の扶養に入っている(被扶養配偶者である)と認定されると、第3号被保険者という扱いで国民年金に加入していることになります。

扶養に入っている状態とは(3)のケースのことです。夫は厚生年金に加入し、保険料を納付しているけれども、扶養に入っている妻自身は年金保険料を支払っていません。それでも、この場合妻の国民年金保険料は支払ったこととみなすとされています。これが「(国民年金第3号被保険者」という制度です(妻自身は厚生年金に加入している、とはみなされません)。
年金上で扶養を抜けるというのは、(3)から(1)(2)の状態になるということです。

厚生年金保険料も原則として、会社を通じて保険料の納付(給与から天引き)が行われます。また次回解説するように、会社がその保険料を半額負担してくれます。

ここまでのまとめ
「年金上で扶養に入っている」とは、厚生年金に加入する夫に扶養されていることが認定され、第3号被保険者として、国民年金に加入している状態のこと。夫の厚生年金保険料の納付により妻の国民年金保険料は納付したものとみなされる。

年金で「扶養」から外れるとどうなるの?

前述のように「扶養に入っている」場合(=第3号被保険者)、国民年金保険料は払った、とみなされ、その分の国民年金はもらえます。ただし厚生年金はもらえません(下図中(3))。

では、年金で「扶養」を抜け、企業に勤めて厚生年金に加入する場合はどうでしょう(上図中(2))。この場合、夫と同様、会社を通じて自身で厚生年金保険料を納付することになります。
そして年金の受け取り分として、国民年金に加え、厚生年金の加入状況に応じた厚生年金が上乗せされます。つまり、年金で「扶養」から抜け、自身で厚生年金に加入すると、厚生年金保険料が発生するものの、将来受給できる年金の金額も増えるということです。

では、扶養から抜けて図中(1)のようにフリーランスで働く場合はどうでしょう。この場合、厚生年金には加入できず、国民年金保険料の納付義務が発生します。つまり、フリーランスの場合、国民年金に加入し、自身で国民年金保険料を納付しても、(独自にiDeCoなどで年金を積み増すことをしなければ)将来の年金受給額は扶養に入っている場合と同じ額になります。

健康保険と年金で扶養を抜ける「金額」を理解する

「130万円」は健康保険における扶養認定の年収目安

このように「健康保険」と「年金」における、扶養に入ることの意味をご理解いただけたと思います。そうすると片方だけ扶養を抜けることはできるのか?と思う方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、それ(片方だけ扶養を抜けること)はできません。

その理由も含め、扶養を抜ける2つのルートについて説明します。1つめのルートが、夫の健康保険の扶養認定の範囲外になるということです。「130万円」とは、この健康保険における「扶養認定」の年収の目安なのです。(年金を管轄している)日本年金機構における扶養内かどうかの判断は健康保険の判断に準じるため、「年金」上の扶養も外れることになります。(そのため健康保険だけ、年金だけ扶養に入るということはできないのです)。
年収が130万円を超える見込みになった場合、その旨を健康保険に届けでたうえで、(1)企業に勤めてない場合は、国民健康保険国民年金に自身が加入し、(2)企業に勤めている場合は、健康保険厚生年金に自身が加入することになります。

つまり年収が130万円を超える見込みがある場合、妻は(企業に勤めているかどうかは関係なく)夫の扶養を抜けなければいけないとうことです。そして、その先は自身の働き方に応じた、年金や健康保険に加入することになります。

ここまでのまとめ
130万円を超えると、夫の健康保険で、扶養認定されなくなる。同時に、年金上の扶養も認定されなくなる。その後の働き方で加入する年金や健康保険は異なる。

新たな「106万」のカベは「社会保険」加入対象の年収目安

そして、扶養を抜ける2つめのルートは、自身が企業を通じた厚生年金健康保険の加入対象となるため、それに伴い夫の扶養を抜けるというものです。
夫が加入する健康保険から扶養を抜けなさいとは言われないけども、自身が勤める企業を通して健康保険厚生年金に(義務として)加入することになるため、(年収が130万円を超えなくても)結果的に扶養を抜けるということです。まず、健康保険は二重に利用できないため、扶養からは外れます。また、厚生年金に加入と同時に国民年金第2号被保険者となるため、(国民年金第3号被保険者としては認定されなくなり)年金上の扶養も外れることになるのです。

正社員ではない場合でも、所定労働時間が通常の労働者(いわゆる正社員)の4分の3以上である場合は、健康保険厚生年金の加入対象者となります(任意でなく義務です)。さらに法改正により2018年から、所定労働時間が正社員の4分の3未満のパートタイマーの場合でも、次の条件をすべて満たした場合、健康保険厚生年金の加入対象となりました。

  • 勤め先が従業員501人以上の企業
  • 報酬月額(月収の目安)が88,000円以上(年収換算で約106万円)
  • 所定労働時間数が週20時間以上
  • 雇用期間が1年以上の見込み

この2つ目に挙げた「報酬月額(月収の目安)が88,000円以上」が年換算にすると106万円です。これがやっと出てきた「カベの金額の正体」というわけです。つまり、106万円は、自身が社会保険(健康保険厚生年金)の(加入・支払い)当事者になる条件ということです。

ここまでのまとめ
社会保険加入の条件の1つとなる年収の目安が106万円。条件を満たすと、健康保険厚生年金にも強制加入となり、年収が130万円を超えなくても、扶養は抜けること に なる。

※「501人以上の企業」というのは、2016年10月から強制的にこの制度が適用される事業者(特定適用事業者と言います)です。2017年4月からは、500人以下の企業も、労使の合意に基づき任意で加入することが可能とされています。上記条件以外に昼間学生ではないことなどの条件があります。

まずは「カベ」の意味の理解から

さて、これまでカベについて個別に見てきました。最初は「たくさんある!」としか見えなかった下図の働くことを躊躇させる各々のカベの意味はお分かりいただけたでしょうか。また、社会保険のカベは超えた場合のメリットもあるということはぜひ押さえておきたいところです。

そして、複雑な社会保険のカベについて、今回は枠組みを中心に説明しました。次回、今回の説明で割愛した、社会保険料として、実際に支払うお金(健康保険料や年金保険料)と受け取れるお金(国民年金厚生年金受給額)について解説するとともに、これまでの内容を、まとめていきたいと思います。

ここまでのまとめ
複雑な社会保険のカベは、まずは枠組みから理解し、加入によるメリットも押さえておく。
執筆協力者紹介
森 広江
モリヒロ社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士。 鳥取県出身。岡山大学大学院農学研究科修士課程修了。食品メーカーで技術職として勤務した後、縁あってメンタルクリニックへ転職。そこで社会保険や労務の仕事に出会い社会保険労務士を目指すことに。資格受験時代は産休職員の代替要員として商社の人事総務部に勤務。現在は「社長も社員も!笑顔の森を広げるお手伝い」をモットーに尽力中。
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ABOUTこの記事をかいた人

小林麻理

ライター、社会保険労務士、本サイト運営人。執筆・編集オフィスライト(https://officewrite.wordpress.com)、社労士事務所ワークスタイルマネジメント(https://workmanage.net)代表。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。2003年に出版社(商業界)に転職、その後、翔泳社を経て、2013年3月に独立。現在、2歳の娘の育児中。