任意接種は必要?小児科医が答える予防接種のギモン(1)

小児科医が答える予防接種のギモン(1)
保育園などへ子供を預けて働く育Workerが、子供の健康のためにできること、しておきたいことの1つが「予防接種」でしょう。「小児科医が答える予防接種のギモン」では、小児科医の諏訪内亜由子先生に、育Workerの育江さんの質問に答えていただくかたちで、「予防接種」に関する正しい知識をお伝えします。第1回は、予防接種の種類やインフルエンザについてです。
育江
こんにちは!育江(いくえ)です。「予防接種」について疑問に思っていることを、先生にどんどん聞いていきたいと思います。
亜由子先生
こんにちは!本記事を担当する小児科医の諏訪内亜由子です。夫と共に女の子二人の育児をしながら、小児科医と産業医の仕事をしています。家庭でも職場でもみんなが笑顔で暮らせるように医療目線でコメントしていきたいと思います 。

「予防接種」の素朴なギモン

予防接種の種類、なぜこんなに多いの?

育江
子どもが受けなければいけない予防接種は多いですよね。昔よりも予防接種の種類が増えている気がします。どうしてこんなに「予防接種」の種類が多いのですか?
亜由子先生
小さな子どもの免疫はとても弱いためです。いったん感染すると、お子さんが亡くなったり、後遺症が残ってしまう病気はたくさんあります。なかには、まだ良い治療法のない病気もあります。
それに対し、行政や研究者や様々な人たちの力で、日本で接種できる新しいワクチンが増え、ワクチンで防げる病気が増えてきているのです。

ワクチンのある一つひとつの病気が、どんな病気なのか、もしかかってしまうとどうなるのか小児科学会のホームページに詳しく載っています。参考にしてみてくださいね。

「任意接種」に関するギモン

「定期接種」と「任意接種」はどう違う?

育江
予防接種の中でも、無料で受けられるものと、任意接種のものがあります。どう違うのでしょう?
亜由子先生
定期接種はお住いの自治体で無料で受けられる予防接種です。自治体からは接種年齢が近づくとクーポンのような問診票が送られてきます。
例えば、肺炎球菌やHib、4種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)などが定期接種です。集団予防目的に比重が置かれているので、予防接種を受けるよう努めなければならない『努力義務』とされています。
(肺炎球菌やHibは少し前までワクチンが認可されておらず、たくさんのお子さんが髄膜炎で命を落としてきた病気です。)

任意接種はロタウイルス感染症、おたふくかぜ、インフルエンザなどの予防接種です。
お子さんの周囲の環境や家族の状況により、できれば受けるべき予防接種です。保育園に行く(行っている)のであれば、受けたほうがいいでしょう。自治体によって、補助が受けられる場合もあるので確認してみてください。

高額な「任意接種」はおっくう…だけど

育江
たしかに任意接種も受けたほうがいいとは思うのですが、高額のものもあって、正直おっくうです……。
亜由子先生
お子さんのためにも、周りの方のためにも、これから生まれてくるかもしれない弟妹のためにも受けることを強くお勧めします。お子さんが集団生活に入るのであればなおさらです。
パパ、ママが子供から感染することもあります。
ワクチンはお子さんだけでなく、親、周りの人たちも病気から守ってくれます。
集団生活に入る前に予防接種を受けることで、お互いを感染症から守って、健康な生活を目指したいですね。

特に受けたい「任意接種」は?

育江
任意接種を受けようとする場合、優先順位が高いものはどれですか?
亜由子先生
任意接種もできる限り受けたほうがいいのはもちろんですが、保育園に行くお子さんということを念頭にあえて優先順位をという場合、次の4つを特にお勧めします。
ロタ
1歳未満で保育園に行く予定でしたらぜひ!
生後2か月過ぎに1回目(あとからは打てないので早い決断を)です。
保育園では冬から春にかけてロタウィルスによる胃腸炎が増えます。このワクチンがなかったころは、入院になる赤ちゃんがたくさんいました。
ロタは、胃腸炎の中でもたちが悪く、高熱が出て痙攣することもあり、ひどい嘔吐下痢になります。家族にも感染し、パパママも大変です。4歳くらいまでにほとんどの方が感染するのですが、小さい子どもほど重症化します。ワクチンを接種していればかかった時も軽く済むといわれています。

おたふく
「ほっぺが膨らむだけ」じゃないんです。ムンプス難聴(両方耳が聞こえなくなることも)や不妊症の原因になります。
耳が聞こえなくなると、自転車に乗りにくくなったり、平均台などの体育がしにくかったり、つきたい職業につけないなんてこともあります。
いずれも任意ですが2回のワクチン接種でより免疫が強化されます。1歳の生ワクチン(MR、水痘)定期接種時に一緒に1回目を。入学前まで(日本脳炎追加時かMR2回目)の定期接種時に2回目を同時接種して下さいね。

インフルエンザ:生後6か月以降で接種可能
インフルエンザは年により流行の型や程度は異なりますが、毎年冬になると話題になりますよね。ワクチンをうっているとかかった際の重症化が防げます。近年はワクチン不足の年もあったりしますので、10月半ばを過ぎたらかかりつけの小児科で聞いてみましょう。

3種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風):5歳ごろ
小学生の百日咳が増えています。0歳、1歳で4種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)ワクチンを受けていても、5歳ごろには免疫が低下して百日咳にかかりやすくなることが知られています。年長さんのMR接種と一緒に3種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風)の任意接種も受けておくと安心です。本人は長引く咳程度かもしれませんが、周りの赤ちゃんに感染するとその赤ちゃんの命が危険にさらされてしまいます。

亜由子先生からもう一言
日本では予防接種を受けることは個人の選択になっています。死に至ることもある恐い感染症から乳幼児や児童を守るために今、最も確実な方法は予防接種しかありません。大事なお子さんを、恐い感染症から守ることができるのはパパとママの考えと行動です。大人がしっかりと予防接種や感染症について理解し、医師と相談して納得のいく予防接種を受けましょう。

「インフルエンザ」に関するギモン

毎年、ワクチンを打つ必要はある?

育江
お勧めの任意接種のなかでも、インフルエンザの予防接種は毎年ありますよね。毎年、受けておいた方がいいのでしょうか?
亜由子先生
ぜひ受けてくださいね。できたら周りの大人もみんな受けましょう。
インフルエンザはかかってしまうと保育園などは出席停止となり、1週間近く休まなくてはなりません。
お子さんによっては、熱が長引いてもっと休むこともあります。同じインフルエンザ感染でもちょっとした風邪くらいの症状から、熱が全然下がらなくて肺炎も合併してしまい入院というようなケースまで様々です。最悪の場合、痙攣や呼吸不全で亡くなったりするケースまであるのです。
お子さん自身の体調のためにも、休む期間を少しでも短くするためにもぜひ家族みんなでワクチンが接種できるといいですね。

予防接種しても感染?

育江
インフルエンザの予防接種を受けたのに、保育園ではやっていたインフルエンザに感染してしまいました。結局感染してしまうのに、ワクチンを打つ意味はあるのでしょうか?
亜由子先生
インフルエンザウィルスは毎年少しずつ変化しています。毎年ワクチンを打つのが大事ですよ。
もちろん流行期にはうつってしまうかもしれませんが、ワクチンを接種すれば軽く済むことが多いです。ワクチンの効き目に関しては、「ホントに効くの?小児科医が答える予防接種のギモン(2)」で改めて解説したいと思います。
亜由子先生からもう一言
「今まで予防接種を受けていなかったけど大丈夫だった。」という方もいると思います。これまでは運がよかったからといって今年も大丈夫かどうかはわかりません。重症化して入院や後遺症となってしまい「あぁ……受けておけばもう少し軽く済んだのかな」といった後悔をしないためにも、しっかりと予防接種を受けたいものです。

ABOUTこの記事をかいた人

諏訪内 亜由子

慶応義塾大学医学部卒業(2002年)、同大学院医学研究科にて医学博士取得・小児科専門医・産業医。大学病院、関連病院小児科勤務を経て、現在、小児科クリニック医師、産業医として活動中。 「夫と共に女の子二人の育児をしています。家庭でも職場でもみんなが笑顔で暮らせるように医療目線でコメントしていきます。」