【社労士が解説】払う年金保険料ともらえる年金額は?~扶養を抜ける?(4)

扶養を抜けて自身で年金保険料を負担すると、将来の年金額はすべての場合で増えるのでしょうか。また増える場合、どのくらい増えるのでしょうか。社会保険制度を理解したうえで働き方の選択をするための知識をお届けする本連載。前回は、社会保険のカベ(106万円130万円)を超えた場合に支払う健康保険料について解説しました。今回は扶養を抜けた場合に自分が払う年金保険料と、将来もらえる年金額についてみていきます。
第1回:103万円?130万円?「カベ」って結局、ナニ?
第2回:106万?130万?社会保険のカベを理解する
第3回:自分で健康保険料を支払うといくらになる?
執筆:社会保険労務士・本サイト運営人/編集長 小林麻理

社会保険と年金の仕組みをおさらい

社会保険のカベは106万円と130万円

まずは、社会保険上で扶養から抜ける場合をおさらいしましょう。第2回で解説したとおり、企業のお勤めの方の場合※1のカベの年収目安が106万円、そうでない場合は130万円でしたね。
106万円のカベを超えると、本人が健康保険厚生年金の加入対象になる。
130万円のカベを超えると、夫※2健康保険で扶養認定されなくなり、自身が健康保険国民健康保険と、厚生年金国民年金に加入する

※1 2016年から「106万円」などの条件が適用されている事業者は「501人以上の企業」です。ただし2017年からは、500人以下の企業も労使の合意に基づき任意で加入することが可能とされています。また、2022年には「101人以上の企業」、2024年から「51人以上の企業」へとこの制度対象が拡大することが決まりました。
※2 本稿では、「妻」が「夫」の扶養に入っていることを想定した書き方になっていますが、「夫」が「妻」の扶養となっているという方は夫と妻を読み替えていただければと思います。

ここまでのまとめ
106万円のカベを超えると、自身が厚生年金に加入することになり、130万円のカベを超えると、自身が厚生年金国民年金に加入することになる。

国民年金と厚生年金の仕組みをおさらい

本題に入る前にもう1つ、第2回で解説した国民年金厚生年金の仕組みについてもおさらいしておきましょう。まず、国民年金は国民全員が加入することになっている年金制度です(図中青色・1階部分)。一方で、企業に勤めていて、かつ一定の条件を満たした人が加入できるのが厚生年金です(図中オレンジ・2階部分)。厚生年金に加入していれば、自動的に国民年金に加入しているとみなされます。

国民年金にのみ加入している人は、もらえるのも国民年金のみですが、厚生年金に加入している人は、国民年金厚生年金の両方が受け取れます。

扶養に入っている=国民年金のみに加入している

「扶養に入っている」ということは、夫が厚生年金に加入し、扶養が認定されて(保険料の納付はしなくても)国民年金に加入しているということでした(これを第3号被保険者と言います・図中左)。
そして、扶養を抜けてフリーランスとして働く場合(第1号被保険者・図中・真ん中)、自らが保険料を納付したうえで、国民年金に加入していることになります。どちらももらえるのは国民年金のみです。
一方、扶養を抜けて、勤め先の厚生年金に加入すると、厚生年金とともに国民年金に加入していることになり(第2号被保険者・図中右)、もらえるのは国民年金に加えて、厚生年金部分を上乗せした金額になります。

国民年金と厚生年金の「保険料」はどれくらい?

国民年金厚生年金の「保険料」はどれくらい?

おさらいはこれくらいにして、いよいよ、保険料について見ていきます。まずは、130万円のカベを超えてフリーランスなどになる場合(第1号被保険者)はどうでしょうか。加入するのは国民年金で、自身で支払うべき国民年金保険料は、年収にかかわらず定額(基本となる金額は月額1万7,000円)です。ただし賃金や物価の変化によって金額が調整され、2020年の場合、月額1万6,540円でした。

一方、扶養を抜けて勤める場合は、次に説明する厚生年金保険料を会社を通じて支払いますので、別途、自分で国民年金保険料を支払う必要はありません。そして厚生年金保険料は、給与によって変動します。式は下記です。

・月の給与に対して:報酬月額(みなし月収)※3×保険料率18.3%
・賞与に対して標準賞与額(みなし賞与)※4×保険料率18.3%

ただし、厚生年金保険料は第3回で解説した健康保険料と同様、原則、2分の1を会社が負担するため、自身が負担するのは(保険料率)9.15%ということになります。

※3  報酬月額は、決められた等級(厚生年金保険料額表)にあてはめたみなし月収です。料額表にあるとおりみなし月収は上限(65万円)が決められています。
※4  標準賞与額は、ボーナスの支給額から1000円未満の端数を切り捨てた金額で、1回あたりの上限は150万円です。

ここまでのまとめ
扶養を抜けてフリーランスになる場合(第1号被保険者)、支払う国民年金保険料は年収に関わらず1万7,000円をベースに調整した金額、企業に勤めていて厚生年金に加入する場合(第2号被保険者)は、月収・賞与(の目安)の9.15%が給与から天引きされる。

将来、受け取れる国民年金老齢基礎年金)は?

それでは、受け取れる年金についてみていきましょう。まずは扶養に入っている人もいない人も対象となる国民年金部分(これを老齢基礎年金と言います)です。

老齢基礎年金は物価などによって毎年変動し、2020年度の場合、年額で78万円1,700円(月額で6万5,141円)。これは、20歳から40年間、定められた加入期間すべてに加入していた場合の満額で、未加入期間があるとその分減額されます。
扶養に入っている場合は、「扶養に入っている期間=加入期間」になります。それ以外の場合は、原則として保険料を納付した期間が加入期間となります。

ここまでのまとめ
国民年金は物価などの状況で金額が調整され、満額でもらえる場合は定額で約78万円(2020年度は78万1700円)

給与によって変化する老齢厚生年金

そして(扶養に入らず)厚生年金への加入期間がある人は、その分の厚生年金(老齢厚生年金と言います)が上乗せされます。

老齢厚生年金の計算方法は、生まれた年や加入期間、配偶者の状況などによって変わりますので、ここでは最もシンプルなパターン(2003年以降※5に加入、加算や調整なし)のみを説明します。計算式は下記です。

「平均標準報酬額」×「給付乗率(0.5481%)」×「加入月数(被保険者期間)

平均標準報酬額とは、現在の価値で※6月ベースに換算してどれくらいの給与をもらってきたか」を表す金額です。どのくらいの給与をもらってきたかについては、前述の厚生年金保険料を決定する際に使用したみなし給与(報酬月額と標準賞与額)によって計算します。

たとえば、平均標準報酬額20万円20年(240か月)勤めたとします。すると、20万円×0.5481%×240カ月=26万3,088円が、毎年、老齢厚生年金として国民年金(満額約78万円)に上乗せされて支給されることになります。

つまり厚生年金は、厚生年金保険料を決定する(みなし)給与が多いほど、受け取る金額も増えるということです。しかも、会社勤めの場合(第2号被保険者)、会社が厚生年金保険料を半額負担してくれるため(国民年金保険料を全額自分で負担したうえ、厚生年金は受け取れない)フリーランスなどの自営業者(第1号被保険者)と比べれば、かなりメリットがはっきりしていると言えます。

ここまでのまとめ
厚生年金は、(厚生年金保険料を決定するみなし)給与に比例して増える。

※5 2003年それより前の場合は、平均月収に賞与を含めず、その分、給付乗率が「7.125」と高い設定となっています。そのほか給付乗率改定前の金額を保障するなど様々な例外がありますが、本稿では割愛します。

※6「今の価値で」というのは、昔にもらった1万円は、現在の1万円とは価値が異なるからです。そこで、現在の水準に直すために、年ごとに決めた「再評価率」を乗じて金額を補正しています。たとえば、1958年までの再評価率は「14.777」ですから、当時の給与1万円は、今の14万7777円と見なすということです。ただし、1992年以降の再評価率は0.9~1,1と限定的な範囲で推移しています。

受給開始は65歳から。長生きするほど金額は増える

国民年金厚生年金も、両方とも受給開始年齢は65歳※7、受け取れるのは死ぬまでです。そのため受け取れる総額は、寿命によって変動します。

そして当然長生きするほうが、自身が負担した金額よりも、受け取る金額が多くなる可能性は高くなります。

たとえば、厚生年金を前述の例で概算すると、自身が負担した厚生年金保険料(約20万円×9.15%×240カ月=約439万2,000円)÷年額の老齢厚生年金26万3,088円)=約16.7年ですから、17年以上の受給(65歳から受給開始の場合は82歳)が払った保険料より受け取る金額が増える目安となります。

※7 1961年以降生まれの場合です。年金受給開始が60歳からという時代もありましたが、受給開始年齢は段階的に後ろ倒しされました。

ここまでのまとめ
老齢に関する年金受給開始は、(1961年以降生まれの場合)国民年金厚生年金も65歳から。受け取れる総額は長生きするほど多くなる。

以上、第4回まで、社会保険の仕組みと実際に払う・もらうお金について見てきました。第5回では、これまでの解説をまとめます。

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ABOUTこの記事をかいた人

小林麻理

ビジネスコンテンツライター、社会保険労務士、本サイト運営人。企画・編集オフィスライト(https://officewrite.wordpress.com)、社労士事務所ワークスタイルマネジメント(https://workmanage.net)代表。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。2003年に出版社(商業界)に転職、その後、翔泳社を経て、2013年3月に独立。現在、3歳の娘の育児中。