自分で健康保険料を払うといくらになる?~扶養を抜ける(3)?

扶養を抜ける(入る)影響を正しく理解したうえで働き方の選択をするための、税金や社会保険の基礎知識をお届けする本連載。これまで税金や社会保険の「仕組み」と扶養を抜ける場合の意味(具体的な内容)を解説してきました。
第1回:103万円?130万円?「カベ」って結局、ナニ?
第2回:106万?130万?社会保険のカベを理解する
今回から、106万円や130万円の扶養のカベを超えて、具体的に支払うことになる「社会保険料」についてみていきます。まずは健康保険からです。
執筆:社会保険労務士(本サイト運営人) 小林麻理

社会保険のカベは106万円と130万円

まずは、社会保険上で扶養から抜ける場合をおさらいしましょう。第2回で解説したとおり、大企業のお勤めの方の場合※1、カベの年収目安が106万円、そうでない場合は130万円でしたね。

★106万円のカベを超えると、本人が健康保険と厚生年金の加入対象になる。

★130万円のカベを超えると、夫の健康保険で扶養認定されなくなる
→自ら健康保険国民健康保険に加入する
※2

※1:2016年10月から強制的に「106万円」などの条件が適用される事業者は「501人以上の企業」です。ただし。2017年4月からは、500人以下の企業も、労使の合意に基づき任意で加入することが可能とされているほか、順次、この制度対象が拡大することが決まりました。

※2:市区町村などが運営する国民健康保険(青字)と、健康保険組合などが運営する健康保険(赤字)別のものです。パートタイムを含め、企業に勤める方で一定条件を満たした方は、健康保険組合などが運営する健康保険に加入することになります。それ以外で、フリーランスなど企業に勤めていない方が利用するのは市区町村などが運営する国民健康保険です。本稿では、この2つを総称する場合の健康保険は、黒字で表現します。

ここまでのまとめ
106万円のカベを超えると、自身が健康保険に加入することになり、130万円のカベを超えると健康保険国民健康保険に加入することになる。

発生する「健康保険料」はどれくらい?

では、自ら健康保険に加入するとどれくらいの健康保険料がかかるのでしょうか?まずは、お勤めしている場合に加入する健康保険の健康保険料について解説します。

計算式は「標準報酬月額(賞与があるときは+標準賞与額)」×「保険料率」です。「標準報酬月額」は「平均月収の目安」と捉えてください。また、標準賞与額とは、賞与額(ボーナス)の1000円以下を切り捨てた額です。※3。40歳以上になると、介護保険料を納めますので、「標準報酬月額(賞与があるときは+標準賞与額)」×(保険料率+介護保険料率)で計算します。

なお、一般の健康保険料率は、3%~13%内とされています。幅があるのは、保険を給付する主体の経営状況は組合や地域によって様々のためです。

一般に、年齢層が低く、扶養家族も少ない被保険者で構成されている健康保険組合の保険料率は低く、逆の場合は高くなります(支えている人が多くなるからです)。健康保険組合のホームページお知らせなどで、保険料率を確認してみましょう。

ちなみに、多くの中小企業が加盟している「全国協会けんぽ」における都道府県ごとの保険料率は【ここ】から確認できます。2020年4月度の東京都の一般保険料率は、9.87%保険料率+介護保険料率は11.66%でした。

※3:「標準報酬月額」は「平均月収の目安」となるもの、と捉えてください(一定時期(原則4~6月)の月収に基づき決定しますが、詳細は本稿では割愛します)。

ここまでのまとめ
健康保険料は、平均月収や賞与の目安金額×保険料率で計算し、加入している健康保険組合などによって異なる。

従業員の健康保険料の半分は会社が負担する

上記をふまえると、月収の1割前後が健康保険料の相場ということになります。ただし、こうして算出された健康保険料は原則、会社が2分1を負担することになっていることがポイントです。ですから、自身が負担するのは現状、月収の約5%とイメージしておくとよいでしょう。つまり、月収が10万円(年収120万円で106万円のカベを超えた)の場合、月額の健康保険料は約5,000円くらいということになります。

通常は、給与から健康保険料(自己負担分。つまり全体の50%)が天引きされ、給与明細で金額を確認することになります。

一方、扶養を抜けて、自営業やフリーランスになる場合は、国民健康保険に加入しますが、次に説明する国民健康保険料は、会社等が負担してくれるわけではありません。

国民健康保険料は、定額部分(均等割や平等割)と所得に応じて支払う部分(所得割)に分かれており、自治体によって金額や率が変わります。国民健康保険の情報サイトによると、定額部分である均等割の全国平均は、3万2.393円(40歳から支払う介護分は別途10,031円)、所得に応じて金額が変わる所得割率の平均は同9.58%(介護分は別途1.97%)です。
そのため、所得の約1割+αをすべて自分で払うということになります。

なお、退職しても(国民健康保険に加入せず)自分が会社員時代に加入していた健康保険への加入を一定期間、継続できる制度もありますが(任意継続被保険者)、その場合も、自身が健康保険料を全額負担します。脱サラした人が最初に「健康保険料の高さ」にびっくりするのは、会社が負担してくれていた分も含めて自分で健康保険料を全額負担することになるからです。

ここまでのまとめ
働いている人の健康保険料の半分は会社が負担してくれる。国民健康保険に加入する場合は、保険料全額を自分で支払う。

医療費の自己負担割合は変わらないがメリットもある

さて、扶養家族として、夫の健康保険を利用する場合も、自ら健康保険に加入した場合も、医療負担が減る割合は変わりません。現役世代の場合、原則、医療費の7割を健康保険が負担してくれ、自分で負担する割合は3割です。

ただし、第2回で解説したとおり、働く人が加入する健康保険に加入する場合には、働けない場合に「傷病手当金(病気の場合)」「出産手当金(出産する場合)」など、各種の手当金が支給されます。再度みておきましょう。

●傷病手当金
療養のために働けない場合に、原則として標準報酬月額(月収の目安)の3分の2に相当する金額が支給される制度です。
●出産手当金
出産のために働けない場合(原則、産前42日、産後56日)に、傷病手当金と同様の計算方法で一定の金額が支給される制度です(詳細ついては、【産休の条件は?社労士がイチから解説、出産&育児制度(2)】をご参照ください)。

社会保険のカベのカベを超えて自ら勤め先の健康保険に加入すると、解説した保険料が発生する代わりに、こうしたメリットを享受できるということです。

また、扶養を抜けると夫の健康保険組合の扶養者に対するサービスは利用できなくなる一方、自分が加入している健康保険組合のサービスが利用できるようになります。ただし、扶養をぬけて自営業やフリーランスになり、国民健康保険に加入する場合は、こうしたメリットもないという点にも注意が必要です。次回は、「年金」について。支払う保険料ともらえる年金額について解説します。

ここまでのまとめ
働いている人の健康保険料の半分は会社が負担してくれ、自己負担額の相場は月収の5%。医療負担割合は扶養時と変わらないが、別途、働けない場合の保障制度が利用できる。自営業者やフリーランスが加入する国民健康保険料の相場は所得の約1割+α(全額負担)で、受けられる給付は扶養時と変わらない。
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ABOUTこの記事をかいた人

小林麻理

ビジネスコンテンツライター、社会保険労務士、本サイト運営人。企画・編集オフィスライト(https://officewrite.wordpress.com)、社労士事務所ワークスタイルマネジメント(https://workmanage.net)代表。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。2003年に出版社(商業界)に転職、その後、翔泳社を経て、2013年3月に独立。現在、3歳の娘の育児中。