かからないには?かったら?小児科医が答えるインフルの疑問

小児科医が答えるインフルのギモン
子どもも大人もインフルエンザにはかからないのが一番。それでもインフルエンザにかかってしまった(かもしれない)!となると、どうしたらいいか迷ってしまうことはありませんか。そこで、今回は押さえておきたい「インフルエンザ」の予防法と、かかってしまった(かもしれない)場合の適切な対処法について、自身も育児中の小児科医の先生に答えてもらいます。
育江
こんにちは!育江(いくえ)です。「インフルエンザ」について疑問に思っていることを、先生にどんどん聞いていきたいと思います。
亜由子先生
こんにちは!本記事を担当する小児科医の諏訪内亜由子です。夫と共に女の子二人の育児をしながら、小児科医と産業医の仕事をしています。家庭でも職場でもみんなが笑顔で暮らせるように医療目線でコメントしていきたいと思います 。

インフルエンザとは?

はやる時期は?

育江
夏にもインフルエンザにかかった子どもがいたようです。どうしてですか?
亜由子先生
本来、流行の中心は冬(1月~2月がピーク)でしたが、最近はインフルエンザが年中はやるようになってきました。季節が逆の南半球と北半球を行き来する人が増えたといった理由から、夏場(南半球では冬)にもインフルエンザがはやるようになってきたと考えられています。

感染はどうして起きる?

育江
インフルエンザはどのように感染するのでしょうか?
亜由子先生
インフルエンザウイルスの感染には、飛沫感染(ひまつかんせん)と接触感染の2つがあります。

  1. 飛沫感染:感染者がくしゃみや咳をしたときに、つばなどの飛沫と一緒に放出したウイルスを別の人が口や鼻から吸い込んで感染することです。学校や劇場、満員電車などの人が多く集まる場所を避けることも大事です。
  2. 接触感染:モノの接触を介した感染で、電車やバスのつり革、ドアノブ、スイッチなどを介して感染することがあります。
    具体的な感染経路は次のようになります。感染者がくしゃみや咳を手で押さえるウイルスがついた手で周りの物に触れる別の人がその物に触ってウイルスが手に付着するその手で口や鼻を触って粘膜から感染する

インフルエンザがどのようにして感染するのかを知ることで、効果的な予防を目指しましょう。

インフルエンザの予防

予防接種

育江
インフルエンザの予防接種は毎年ありますよね。毎年、受けておいた方がいいのでしょうか?
亜由子先生
ぜひ受けてくださいね。できたら周りの大人もみんな受けましょう。
予防接種は、発病の可能性を下げ、重症化を防ぐ大きな効果があることが分かっています。
インフルエンザを発病した後、多くの方は1週間程度で回復しますが、中には肺炎や脳症等の重い合併症が現れ、重症化してしまう方もいます。インフルエンザワクチンを打つことで、発病の可能性を減らすことができ、また最も大きな効果として、重症化を予防することが期待できます。なお、接種回数は、13歳以上は原則1回、13歳未満の方は2回となります。妊娠中もうけることができますよ。お子さん自身の体調のためにも、休む期間を少しでも短くするためにもぜひ家族みんなでワクチンが接種できるといいですね。
育江
インフルエンザの予防接種を受けたのに、保育園ではやっていたインフルエンザに感染してしまいました。結局感染してしまうのに、ワクチンを打つ意味はあるのでしょうか?
亜由子先生
インフルエンザウイルスは毎年少しずつ変化しています。毎年ワクチンを打つのが大事ですよ。もちろん流行期にはうつってしまうかもしれませんが、ワクチンを接種すれば軽く済むことが多いです。生後6か月以降で接種可能です。

予防接種以外

育江
予防接種以外でインフルエンザの流行期に家庭で気を付けられることは何でしょう。
亜由子先生
頻繁な手洗いとマスク着用を心がけていただければと思います。マスクをしていれば安心、よく手を洗っていれば安心というのではなく、手洗いとマスク2つの合わせ技が重要です。

  1. 頻繁に手を洗う 接触感染を防ぎます。
    手洗いが重要というのは、私たちは毎日、様々なものに触れており、それらに触れることにより、自分の手にもウイルスが付着する可能性が高いからです。
    手洗いの際は、ウイルスの体内侵入を防ぐため以下のことを心がけましょう。

    • 外出先から帰宅時や調理の前後、食事前などこまめに手を洗う
    • (ウイルスは石けんに弱いため)正しい方法で石けんを使う
  2. マスクをする 飛沫感染・接触感染を防ぎます。マスクをすることは、自分の鼻や口に無意識に手を持っていくことも防げます。

もちろん、予防接種がもっとも効果的です。また、接触感染を防ぐためには、感染媒体となる場所の手入れは大事です。私が産業医として担当している会社では、衛生担当の方にドアノブやスイッチの定期的なふき取りをお願いするようにしています)

亜由子先生からもうひと言
鼻水を介した感染にも注意
おおむね3歳未満のお子さんは鼻がかめません。昔はお母さんがお子さんの鼻を直接すっていたそうです。今は、チューブを介して鼻水を吸い取る道具、電動の鼻水吸引機など普及しています。保育園に行くと鼻水は多いのでおうちでも持っている方が多いのではないでしょうか。
特に気を付けていただきたいのはチューブを介してお子さんの鼻水がお母さんの口に入らないようにすることです。また、鼻水を触ったら、しっかり手を洗いご自身の感染を予防しましょう。なお、首から下げたり、空間除菌する除菌グッズには効果がないことが分かっています。

インフルエンザかもしれない…?

風邪とインフルエンザの違いは?

育江
インフルエンザと風邪の違いはどのようなものでしょうか?
亜由子先生
症状に関することとしては次の表のような差異があります。
また、風邪は(特に季節の変り目や疲れているときなど)年間を通じてかかる傾向にありますが、インフルエンザの場合は流行時期は冬です。ただし、最近では、かかる人は年間を通じています。

受診の目安は?

育江
子どもにインフルエンザの症状が出ています。すぐ受診したほうがいいでしょうか?
亜由子先生
もし、急に38度以上の発熱が出て、咳やのどの痛み、全身の倦怠感を伴うなどインフルエンザが疑われる症状が出た場合には、早めに医療機関(内科や小児科など)を受診しましょう。ただし、特に発熱から12時間未満の場合、インフルエンザウイルスの種類や検査機械の精度により感染していても検査の結果が陽性にならないことがあります。

インフルエンザにかかったら…

服薬はどうする?

育江
受診の結果、インフルエンザでした。服薬はどのように考えればいいでしょうか?
亜由子先生
医師が必要と認め、患者さんの希望があれば、抗インフルエンザウイルス薬が処方されます。抗インフルエンザウイルス薬の服用を適切な時期(発症から48時間以内)に開始すると、発熱期間が通常1~2日間、短縮し、ウイルス排出量も減少します。なお症状が出てから48時間以降に服用を開始した場合では、十分な効果は期待できません。
育江
「では、発熱から12時間以上でなければ検査でインフルエンザとは確認できない可能性が高く、服薬効果を得るには発症から48時間以内ということも踏まえて、受診しようと思います。」
亜由子先生からもうひと言
インフルエンザには、次のようにさまざまな薬があります。お子さんの年齢や症状によって薬が選択されます。オセルタミビル(タミフル)内服薬、ザナミビル(リレンザ)吸入薬、ラニナミビル(イナビル)吸入薬、ペラミビル(ラピアクタ)点滴、バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)内服薬
※()内はすべて商品名で、各社の登録商標です。
育江
薬を飲んだ際に気を付けることはありますか?以前、タミフルを飲んだ子どもが、異常行動を起こした、というニュースを聞いたので心配です。
亜由子先生
服用にかかわらず、お子さんが小学校以上から19歳(未成年)までは、少なくとも発熱から2日間、異常行動に伴って生じる飛び下りなどの重大事故に対する防止対策をしてください。
インフルエンザにかかった子どもの飛び降りなどの異常行動は、タミフル(オセルタミビル)使用者に限った現象ではないという判断が出ています。そしてすべての抗インフルエンザ薬の副作用の注意書きに「因果関係は不明であるものの、インフルエンザ罹患時には、転落等に至るおそれのある異常行動(急に走り出す、徘徊する等)があらわれることがある。」と追記しています。「大きなお子さんだから大丈夫」というお留守番はインフルエンザに関しては危険です。
平成30年日本医療研究開発機構(AMED)研究班の検討により
育江
薬は飲まなくても大丈夫なのでしょうか?
亜由子先生
抗インフルエンザ薬を飲まないとインフルエンザが治らないわけではありません。学会の指針でも「多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない。」とされています。
幼児やインフルエンザの重症化リスクが高い患者、呼吸器症状が強い場合には、インフルエンザ薬を使って治療したほうが良いいう指針が学会から出されています。なお、高インフルエンザ薬は発症後48時間以内の使用が原則です。
育江
インフルエンザについてだいぶ理解が深まりました。かからないのが一番ですが、かかってしまっても、適切に対処したいです。
亜由子先生
はい、そして万が一、かかってしまったら、「ほかの人にうつさない」ということも、気を付けていただければと思います。お話した内容も含め、正しい手の洗い方や、ほかの人にうつさないための注意点が「政府広報オンライン・暮らしに役立つ情報」の「インフルエンザの感染を防ぐポイント」として紹介されています。ぜひ参考にしてください。

ABOUTこの記事をかいた人

諏訪内 亜由子

慶応義塾大学医学部卒業(2002年)、同大学院医学研究科にて医学博士取得・小児科専門医・産業医。大学病院、関連病院小児科勤務を経て、現在、小児科クリニック医師、産業医として活動中。 「夫と共に女の子二人の育児をしています。家庭でも職場でもみんなが笑顔で暮らせるように医療目線でコメントしていきます。」